公開: 2024年4月19日
更新: 2024年4月19日
ネアンデネタール人のDNAを化石から採取し、解析する技術が向上し、ドイツのマックス・プランク研究所で、世界各地で発見されたネアンデルタール人のDNA解析が行われました。その結果、現代に生きている人間の一部の遺伝子に、ネアンデルタール人の遺伝子から受け継がれた遺伝があることかが分かりました。最も有名な性質は、金髪の髪の毛、青い色の瞳、白い肌の色などです。つまり、北方ヨーロッパに暮らす人々によく見られる、「白人」の特徴です。さらに、ネアンデルタール人から引き継いだ遺伝と考えられる性質に、一部の感染症に対する免疫があります。これらの遺伝は、現生人類の中でも、アフリカに住む人々には、見られない遺伝なので、現生人類がアフリカを離れた後、中近東で獲得された遺伝だとされています。
この人口減少の時、現生人類に大きな変化が起きたと考えられています。その変化の一つに、「互いに協力して生きること」がありました。これは、互いに争うきっかけとなる、ホルモンのエストロゲンの分泌が減少し、その結果、頭蓋骨の瞼(まぶた)上部の突起が小さくなったことで分かります。これは、仲間同士で、食物を争って食べるよりも、分け与えるようになったためだと考えられています。このことによって、仲間同士での意思疎通のための、言語によるコミュニケーションが重要になり、言語能力が高まったと予想されています。この能力は、現生人類が、大きな集団を作るときに、有利に働いたと考えられます。
アフリカ大陸で、噴火の後の寒冷期を乗り越えた我々の祖先は、アフリカ大陸を離れ、北へ移動を始めました。そして、北アフリカから中近東へ移動し、先にアフリカから北へ移動をしていたネアンデルタール人に、現在の死海の近辺で追いつきました。ネアンデルタール人は、その後、地中海沿いにヨーロッパ大陸へ進出しましたが、我々の祖先は、ヨーロッパ大陸へ向かった集団と、アジア大陸へと向かった集団に分かれたと考えられています。ヨーロッパ大陸へ向かったグループは、氷河期のヨーロッパ大陸で、ネアンデルタール人と共棲(きょうせい)していたようです。この頃、ネアンデルタール人と現生人類との混血があり、その結果、現代人にも遺伝している特性が獲得されました。
現代人の一部にある、白い肌や青い目、金髪、などの特徴は、ネアンデルタール人の遺伝だと考えられています。また、一部の免疫も、ネアンデルタール人から受け継いだと言われています。中東からアジアヘ向かった現生人類の中には、インド洋や太平洋へ向かって進んだ人々と、アジア大陸の中央部を東に進んで、現在の北中国からカムチャッカ半島を経由して、陸続きだったアラスカを経て、アメリカ大陸に渡った人々もいたと考えられています。
この現生人類の大移動によって、現生人類は、その生活環境に合わせて、身体や脳の一部に進化を起こしました。身体的には、肌の色、背の高さの違い、胴と手足の長さの違い、などに顕著な差が生まれました。似たような差は、脳の構造にも生まれ、人が育った地域の言語の違いや、文化の違いなどによって、脳の部分の働きが違っています。ただ、脳内の働きの違いは、遺伝的な問題と言うよりも、生まれた後の学習によって、形成される場合が多いようです。
例えば、日本語、朝鮮語(韓国語)や、アイヌ語では、言葉を話すとき、"R"と"L"の音を区別しません。しかし、世界の多くの言語では、この2つの音を区別します。日本人が、英語を母国語とする人々と英語で話をするとき、この2つの音の聞き分けが、問題になることは、良く知られています。この日本人に特有な問題は、小さいときから英語が主たる言語である地域で育った人々の間には、ありません。このことは、脳の問題ですが、遺伝的なものではなく、成長の過程で獲得された能力であることを示しています。
ただ、言語による文を構成する能力、すなわち文法に沿った文を作る能力や、文法に合った文が話された音を聞き、その意味を理解する能力については、言語が何であるかを問わず、時間をかけて学ぶことができる能力を、人類は遺伝的に獲得しているようです。言語学者のチョムスキーは、それを生成文法と呼びました。人間の子供たちが、どんな言語でも親たちが話す言語を聞き、その言語に従った文を話すことができるようになるのは、全ての言葉が普遍文法に従っていて、その普遍文法を人間は理解できる能力を持っているからだとしました。人間が話している言語は、この普遍文法に従って作られているので、個々の言葉の文法を理解できると言う説です。人間の脳には、言葉を理解し、話すための仕組みが、遺伝的に組み込まれているのです。
ホモサピエンスは、動物の種類としては、自分達とは違っていたネアンデルタール人の言葉も、一定期間の後、理解することができ、ネアンデルタール人と意思疎通ができたと考えられます。つまり、ホモサピエンスとネアンデルタール人は、共通の普遍文法を理解できる能力を遺伝的に引き継いでいたと言えるでしょう。そのことは、ホモサピエンスとネアンデルタール人は、チンパンジーとホモサピエンスよりも、はるかに近い関係にあったはずです。動物は、種を越えた混血はしません。その意味でも、ネアンデルタール人は、ホモサピエンスに近い存在だったはずです。